THE BRIDGE
製作年:2006年
監督:エリック・スティール
サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジ。誰もが知っているアメリカを代表する観光地は、同時に自殺の名所でもある。1937年の建設以来、約1300人が自殺したといわれる橋のたもとにカメラを1年間据えた。その間、24人が66メートルの高さから海面に飛び込んだ。カメラはその一部を捉えている。そしてかつての自殺者の遺族の元を訪ね、インタビューをする。そこから自殺を図る人間の姿が浮き彫りになっていく…。
前々から興味があった作品だったのですが、久しぶりにレンタルショップに行ったところ、貸し出し期間が一週間になっていたので、借りることにしました。
僕は「自殺」という現象に昔か興味があって、卒論も「自殺問題」に関することでいこうと思っているので、かなり気になっていたんです。
本作を見終わって、まずサンフランシスコの人にとってブリッジが自殺の名所であることがよく知られていることに驚きました。
映画内ではブリッジで2004年に24人が飛び込み自殺をしたとありました。
2週間にひとりの割合で飛び込んでいることになりますね。
本作には欄干に足をかけ身を投げる人の実際の映像も多く収められてます。
近くを人が歩いていたり、サイクリングしていたり、家族で記念写真を撮ったりしている中で、身を投げていくその様子は、なんとも衝撃的。
公衆の面前での自殺ということでは、日本でも鉄道で頻繁に人身事故がおこりますね。
自殺という現象は日本でもタブー視されていることもあり、問題の大きさの割りには問題意識を持っている人は少ないように思います。そもそも自殺には、誰もがネガティブな印象を持ちますしね。
そのために、自殺に関して、誤った認識がされていることも多くあります。
例えば、このドキュメンタリー映画の中には、自殺を周囲にさかんにほのめかしていた人がブリッジの上から投身したケースが登場します。これは、個人的なケースとして片付けることのできない重要な示唆を含んでいるように思う。
「死にたいとまわりに言う人は絶対に死なない」という風に思っている人がよくいますが、そんなことはないということです。
映画で取り上げられているジーンという青年も冗談めかしで周りによく「死にたい」、「殺してくれ」と言っていたといいます。そのため周りもそれを受け流しており、行動に出てはじめて、まさか自殺するとは、と驚くわけですね。ジーンの親は「いつものことだ」と受け流していたし、同時に「いつもそんなことを言われると嫌気がする」とも話していました。
たしかに嫌気がするのも理解できるけど、それを言ってしまえるあたり、なんというかあけすけに物を言うなぁと僕には意外でした。
ジーンの親以外にも、自殺願望のあるわが子のことを語った父親が、「もう逝かせてあげよう思った」と言ってしまえることにも、やるせなさが残りました。
しかし、当事者にしかわからないことがあるのだろうと納得するしかありません。
全体的に包み隠さず回答者がインタビューに答えている印象です。
自殺を止められなくて後悔した人、「これでよかった」と内心では思ったと言う人、「いつかは必ずこうなった」と投げ出す人、自殺したことに怒りを感じたと言う人、親しい人を失った人達のそれぞれの気持ちが、語られています。かなりシビアなことをあっさりと言い放つ人が多いことに少し驚きました。
たとえ耳が痛くとも、こうした意見を聞きだすことは必要なのかもしれない。自殺願望を持つ人の家族やまわりの人のケアもまた自殺問題で取り組まなければならない重要な課題ですし。
ただし、自殺願望を持っている人にとっては、このドキュメンタリーを見ることはマイナスな部分がかなり大きそうです。
DVDの特典で入っていた監督インタビューも興味深かったです。
アメリカでは自殺は社会問題として取り上げられることがあまりないので、問題提起のために撮ったということでした。
ドキュメンタリーというのは、往々にして、社会を念頭におき、何を訴えるべきかが制作の発端になっているので、存在の意義が感じらますよね。特に今回のような、タブーでありながらも、しっかり取り組む必要がある問題なんかの場合には。
実際の投身の映像を見せることに対する批判や、プライベートに迫りすぎだという批判もあったとエリック・スティール監督自らインタビューで語っていました。
それに対し彼は「自殺に対する社会の偏見の方に問題がある。」と話していました。
この点は、実に難しい部分です。
社会にアピールをすることは必要だけれど、事細かな描写や、実行に至る経緯などを露にすることは、模倣自殺などを引き起こす可能性があるし、自殺願望を持った人に対しては刺激になる部分があるなと見ていてかなり感じたので。
けれど、自殺願望者以外の人が見たときの本作の存在意義はたしかにあると僕は思う。というか、自殺問題が如何にしてあるのかを知らない人が見ないことにはこの作品の意義はないと言える。
※僕の調べたところ、ブリッジでの自殺は当局が認識している数で2006年に34人に急増しており、その原因にはこの映画の公開があるのではないかということです。
橋での自殺に関しては本作の影響である可能性はありますが、しかしもっとも問題なのはたとえ映画の影響で橋で自殺をした人が出たとしても、それはあくまでトリガー(引き金)にすぎないということです。もしくは自殺を決行する場所がブリッジになっただけであり、僕は本質的な問題はそこにはないと思います。
予算の関係で実現はしていないものの、橋は柵をかけることで自殺を防げるといいます。しかし防止柵をつけて自殺を減らしたとしても、それはあくまで「ブリッジでの自殺」が減っただけであり、決行する場所が他に移るだけではないでしょうか。
なのでもっと問題の根底に目を向けなくてはいけないように思います。
とはいえ、やはり本作には模倣を引き起こすような描写があるので、注意しなくてはいけませんね。
(参考:AFP http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2169216/1254517)
ネットで評判を拾ったところ、批判的な声もあるようです。投身する映像を写したことに対して「自殺を見世物にしている」という批判や「何を伝えようとしてるのかわからない」というもの。
僕はこうした批判は少し的外れな気がします。
大事なのはそこから自分が何を感じ取ったかであり、「何を伝えようとしているか」ではないと思う。
あえて言うとすれば、この映画は、自殺という問題を少しでも感じ、考えることを人々に提起することが目的なのだから。自殺問題に関心がある自分としては「なんてやつらだ!」と製作者に対して批判するだけの意見は、なんだか残念でした。
「映像に映し出された現実を目にしてあなたはどう思ったの?」という意見をこそ僕は聞きたい。
そこに何もないとしたら、それは監督の言う「自殺に対する社会の偏見」ではないのかと・・・。
もし、撮影し続けたために見殺しにしてしまった人がいたとしたら、製作者は責められるべきですが、
少なくとも映し出された映像に嘘はないのだから。
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