新潮文庫(ほ 4-44)
出版社:新潮社
ISBN:4-10-109844-1
発行:1991/12
都会からはなれた小さな入江で出会った老人と新婚の夫婦。その夜、老人が見たのは、新婚の2人が殺しあう夢だった。1年後、老人はまた同じ夢を見た。不思議な夢を気にした老人は、名産品を2人に送って様子をみる。礼状が届き、何事もなかったかと、安心する老人。この繰り返しが、何年も続いたのだが…。
夢想と幻想の交錯する不思議な世界にあなたを誘う夢のプリズム30編。
出会ったばかりのショートショートの世界。
その出会いはつい先日読んだ星新一の「これからの出来事」という作品集でした。
一味違う世界観にどうもなじむことができなかったにもかかわらず、一冊読み終えてみると、またもう1冊読みたくなってしまうのはなぜなんでしょう。
ショートショートは、通学時間やちょっとした時間ができたときに取り出して読むことができるので、生活の中のほどよい息抜きになるのかもしれません。
ほんとに3分くらいあれば、時間が埋められるので心強いです。
さて、今回の作品集は夢や幻想などの不思議なお話を中心にまとめた作品集。
あいもかわらず、頭の悪い僕は読み終わっても「ナンダコレ?」という風で、作品のテーマ(主張)がサッパリわからないことも多々ありましたが、かなり楽しく読めました。
頭の悪い僕でも主張がわかり、なおかつ、「これは面白い」と思えた作品を4つほど選んで紹介します。
ひとつめは『夏の女』という作品。
星新一の世界に触れて間もない僕なのですが、思うに星さんは文章にあまり感情というのを入れずに、どこか冷めたような見方があるように思います。無味無臭で雑菌0%のクリーンな文章とでも言いますかね。
そんな印象があるのですが、この作品にはどこか哀愁が感じられます。
悔やむ気持ちというのが滲み出ているような終わり方が哀愁を帯びています。
他の作品と比べて文体に変化はないのですが、これは別の意味で不思議だ。
第一印象では「味気ない」と思った星新一の文章は、実は何もしていないのではなくて、不思議な魅力が詰められているのかもしれない。そんなことを思いました。
ふたつめは『退屈』。
退屈なときに読んでみてください。
退屈を紛らわすために登場人物が動くさまを読んでいるときっとあなたの退屈もちょっとは解消されるのではないかと思います。
思えば、ショートショートは「退屈」を紛らわすための道具にぴったりですね。
メッセージの痛烈さで言えば、『病名』という作品はかなり的を得たことを描いていると思います。
なんでもかんでも「病名」をつけることで患者を楽にしたり、不幸にしたり。
作品を読んで思い当たったのは、近年問題になっている精神障害の症状についてです。
みなさん自分が何かしらの精神障害を抱えているのではないかと不安になったことはありますか?
僕はあります。実は少しだけ通院したこともあるのですが、それは置いておいて、ためしに「精神障害の種類」をネットで調べてみると、あるわあるわ、いろんな障害。
でも、いろいろ見てみて思うのです。
こんだけ種類があれば、誰だって精神障害者ってことになるじゃねーか!
ってね。
ちょっと視点をずらしますけど、人間って得体の知れないものにことさらレッテルを貼ることでそれを認識して安心感に浸りたいという性質を持っていますよね。きっとそういうことなんだろうな。
この作品を読んでいてそんなところまで考えが行ってしまいました。
これは痛烈な皮肉が込められていて可笑しい作品でした。
さて、星新一が好きな人は彼の残した沢山のショートショートの中で自分だけのお気に入りというのをそれぞれに持っているのだと思いますが、僕にもそんな作品がひとつできました。
『捕獲した生物』という作品。まさにSFといった内容の話です。
宇宙人が一対の地球人をさらって自分たちの星に持ち帰り、動物園にいれて見世物にする。
そこから話が展開していき、あれ、あれ? という間に最終的には、聖書の「創世記」に書かれているアダムとイブの話になっているという、ざっと、こんなお話なのです。
何年か前に読んだカート・ヴォネガットの「タイタンの妖女」が連想されました。
あの作品は、「実は僕たちはどうでもいいもののために生かされている」ということをユーモラスに描き、けれど心温まる素敵な作品に仕上げられていました。
「実はこういうことかもよ?」
という星さんの奇想天外で面白い発想がよく現れている作品だなぁと思います。
ちょっとしたおとぎ話ですよね。でもそれが夢心地で素敵なのです。
「空想だけれど、あったらあったで、それは面白い。いやむしろ本当にそうだったら良いのに。」
というこの感覚。
いままで5、60編読んだ中ではこの作品が今のところ一番好きです。


