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阿刀田高 「遠い迷宮―阿刀田高傑作短編集」

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集英社文庫 (あ 13-8)

出版社:集英社
ISBN:978-4-08-746211-1
発行:2007/9

良家の若妻・真樹子は、そろそろ1歳の娘と朝の時間を優雅に過ごしていた。そこへ、出産の時に病院で世話をしてくれた初江が、突然訪ねてくる。表面は人のいいおばさん風だが、何か薄気味悪い感じのする女。彼女が帰った午後、刑事がやって来て…「来訪者」より。
人生、男女、心など、人間が生み出す数々の謎をモチーフに描く、鮮やかで洗練された珠玉のミステリー10編。




言葉の使いまわしが巧みで実にしなやかに話をすいすいと展開させていく作家だということを改めて感じました。実に感じの良い、言い方を変えれば気品のある文章の使い手なんですよね。
読んだ人にしかなんのことやらわからないとは思いますが、いくつかの話をかいつまんでレヴューしてみます。


『趣味を持つ女』

阿刀田高の巧みな小説を称して「阿刀田マジック」とどこかに書かれていたのを目にしたことがあるのですが、それこそこの作品はマジック、手品のような小説です。特徴的なことに読む人の視点を向けておいて実は視点の片隅に移りこんでいるところで何かが起こっているという。


『来訪者』

「これってなんか〜っぽいよな」と感じていたことが実はどんぴしゃで当たっていたのですが、それでも読む人を驚かせるっていうのはなんなんでしょう。
いや、むしろ「本当にそうなの!?」という驚き。
ようは、読んでいる人にそれと思わせるような書き方をして、雰囲気をほんのり漂わせているっていうことなんでしょう。やたらと主人公の心情描写が露骨でえげつないのも、ちゃんと計算して組み立てているということが最後まで読むとよくわかります。


『ナポレオン狂』

珍しく一人称の視点で書かれている作品で、最初は、なんだか教養を身につける新書のような感じを受けたのですが、ちゃんとしたストーリーのある小説です。
思わせぶりな話の閉じ方が読む人の心をくすぶらせます。
本当はどうなのか?どうなったのか? それがわからないからこそ、この作品の魅力が引き立つのでしょう。


『粘土の女』

読み終えてみて、「やっぱ女って怖いよな」という感想を抱きました。僕が勝手に思い込んでいることかもしれないけど、男性よりも女性のほうが表面的な性格と隠し持った一面の乖離が激しい気がするんですよね。それは、大抵の女性は表面的なやりとりがとても穏やかというか差し障りないことを言っているばかりなので余計に本性というのが引き立つんだと分析するのですが。
大学の女の子なんて傍目から見ても、本当に心がこもってないコミュニケーションをしてますからね。やたらと「かわいい」とか「すごい」とか互いに褒めあっていたりして。


『恋は思案の外』

信子の恋人のことで話にオチをつけるのかと思ったら、違いました。そしてそのオチというのも実に思いもつかないところからやってくる。偶然に偶然が重なったことではあるのですが、タイトルの「恋は思案の外」もそうですが、「よりによって馬鹿な相手を選んだものだ」という台詞が話の中でしっかり提示されているので、それが伏線としてしっかり機能しているんですね。
構成をじっくり練りこんでいるからこそこんな話がかけるのでしょうね。やられたぜ。


ただ、ちょっとばかし「これはどうなんだろう」と思う話もいくつかありました。
例えば以下の2つの小説。


『蜜の匂い』は、ある種の逆転劇が最後に待ち受けているのですが、それが成立するためにはそれ以前の話にちょっとした矛盾があるように感じてしまいました。お金の問題や、心情描写を前と後ろで見合わせて、しっかりがっちりと繋がっているかというと少しだけ納得のいかない部分も・・・

『姉妹抄』も終わらせ方(人の殺し方)が少し強引な気がしないでもない。薬局が薬を渡し間違えることはまああるかもしれないけれど、それが劇薬だったっていうのは、だとしたらなんでそんな危険なものが薬局に置いてあるのさ? というどうでもいい疑問が湧いてしまいました。
これは単に僕の知識がないせいかもしれませんが・・・


巻末には阿刀田さん本人による自作解説が載っていて、興味深く読みました。
文の始まりで阿刀田さんは

小説はすべてミステリーである、と、これは私の持論である。
(“すべて”は言い過ぎかもしれないけれど80パーセントを超えてそうだろう。)


と記しています。

初めになにかしら謎が呈示される。それが深まり、もつれて進展し、答が暗示され、明示され、大団円となる。これをミステリーの構造であるとし、短編小説というのはとりわけこの構造が見えやすいのだと書いています。

ただ、それは狭義でのミステリーというジャンルのことを指すのではなく、なにかしらの謎を示して、それを読者に楽しんでもらうことを小説を作る際のテーマにしているとのことです。
(その意味ではこの傑作集は狭義の意味でのミステリー短編集であるとも書かれています)


なるほどだからこそこの人の短編小説は読んでいて面白いのだと思いました。
それは「これはどういうことなのか」ということを推測する楽しみだったり、きっちりと何かしらのオチをつけてくれる作者への期待でもあるのですが、そういう作品を書き続けるというのもすごいことだよなと感心してしまいました。

この短編集を読んでいて、ミステリーこそこの作家の真骨頂なのかなと思ったのですが、それは実は阿刀田高の小説すべてに共通する作風で、狭義の意味でのミステリーに属するこの短編集に収められた話にはその魅力がより明確に表されているということなのですね。


「自作解説」なので、一作ずつ、どういう事がきっかけでその話を思いついたのかを紹介しているのですが、小説家ってこんな視点で日常を見ているのかと思うと、なんとも楽しそうというか、でも大変だなぁとも感じます。

逆に読者の僕はただ優雅に作品を楽しませてもらうだけのなので幸せ( ´∀`)



P.S.
阿刀田さんの著書に短編小説に関して書かれた新書が何冊があるというのを最近知りました。これは読まないわけにはいかない。まだ手に入れてませんが、読み終わったら紹介します。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

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