
新潮文庫(お-48-6)
出版社:新潮社
ISBN:978-4-10-123417-5
発行:2006/09
高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。
以前読んだ
「Q&A」は、最後の最後に話が思わぬ方向に暴走していってしまい、読者である僕は取り残されてしまいました。「二度と読むか!」と思っていた恩田陸作品なのですが、やはりひとつの作品だけで判断するのはもったいないと思い、もう1冊読んでみることにしました。(「Q&A」にしてもあいまいな結末以外の部分はかなり楽しく読めたわけだし)
選んだのは、「夜のピクニック」。
「Q&A」の記事にコメントをしてくださった
たけ14さんのおすすめ作品だったのと、ネットで調べてみてもかなり評判が良いみたいなので。
本作はジャンルとしては青春小説なのですが、相変わらず文章は親しみすくスイスイ読み進めることができます。また、この作品では、融と貴子、二人の異母兄弟の視点を交互に変えながら展開されていくわけですが、視点の切り替えも自然で、話の流れとうまくマッチしているように感じました。
それ本当に必要?という余計に感じる部分がやはり僕には時々あって、うっとおしくなることもあったのですが、話が佳境に差し掛かるころには、そういった部分はなくなってきて、一気に読むことができました。
融と貴子が会話をする場面で、二人の視点が入れ交じっているのも良かったし、また話の閉じ方が、スマートで、読後感を良くしてくれました。
登場人物の小説の中の役割が、よく考えられていて無駄がない点に関心。
「人と人との繋がり」について何かを訴えたい作品なのかなぁという印象を持ちました。
全体的には、ワクワク感があって、かなり面白かったのですが、細かいところではケチをつけたい点がふたつほど。
まずは、作品のリアリティに関して。
夜通し歩くという行事や、クラスに異母兄弟がいるという設定はそれ自体が特別なものだし、そこにケチをつけるつもりは全くないけれど、自分が高校生だったときと、この小説に出てくる高校生たちを比べると、彼らは少し大人っぽすぎる気がします。落ち着いていて大人っぽい高校生もたまにはいるかもしれないけど・・・。
まあ、僕は中堅校の出なので、ここで描かれている人達のような優秀な高校生ばかりいる進学校とは環境が違うのかもしれないですけどね。登場するほとんどの人物が、どこか人間が完成されすぎている感があって、そこに少しばかり矛盾を感じてしまいました。
あと、違和感があったのは、「夜のピクニック」という題なのに、物語における夜はそれほど重要な時間として描かれてはいないという点。というか正確には、朝から次の日の朝まで歩くので、夜以外の時間のほうが長いということ。
特別な行事の「夜」といえば、例えば移動教室の肝試しとか、が思い浮かぶのですが、それはもう一生の思い出になるほどワクワクしたりするじゃないですか。この話は全体にそんなワクワク感は漂っているのですが、何かが起こったとして、それが実はもう朝の出来事だったりする。するとなんだか自分と小説との間にズレを感じてしまうんですよね。
「そんなのお前だけじゃ」と言われてしまえば、それまでなんですけど・・・。
告白すると、読み始めてからしばらく、話の中ではまだ日が落ちていないのに、夜の闇の中を彼女たちは歩いているのだと勘違いしていました(ノ∀`)テヘ
不器用なふたりが、親しい人に助けられ、また、予期せぬ人にも結果的に支えられ、ひとつのドラマが生み出されるというのは、普段の人間関係にも言えることかもしれませんね。
言い換えれば、とても幸福な人間関係があるからこそ、この小説の話の展開は成立しえたのでしょう。この小説は「幸せな人々」のことを描いた幸福感のある作品であるというのが、読み終えてみて一番の実感です。
テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

文春文庫(か 32-5)
出版社:文藝春秋
ISBN:978-4-16-767205-8
発行:2007/10
大人になったら、友達をつくるのはとたんにむずかしくなる。
働いている女が、子供を育てている女となかよくなったり、家事に追われている女が、いまだ恋愛をしている女の悩みを聞いたりするのはむずかしい。高校生の頃は簡単だった。一緒に学校を出て、甘いものを食べて、いつかわからない将来の話をしているだけで満たされた。
けれど私は思うのだ。あの頃のような、全身で信じられる女友達を必要なのは、大人になった今なのに、と。
――角田光代
かなり評判の良い小説なので読んでみることにしました。この本、直木賞もとってるんですね。
女性の友情について描いたこの小説。
女性という生き物ほど不可思議でとっつきにくいものはないと思っている僕は、作者の角田さんも女性ですが、女性が描いた女性の友情というのにとても興味をひかれて読み始めました。
ただ、読み始めてしばらくは、な〜んかしまりのない話だなぁといささか退屈しておりました。
ベートーヴェンの5番交響曲のようにいきなり主題からズバーンと入ってくるような小説だとこちらも世界に入っていきやすいのですが、興味を持ってしっかりと話に入って行けたのは中間以降からでしたね。
この小説、過去と現在の時系列でそれぞれ違う人間を描く視点、で話が交互に展開していくのですが、そのまま読み進めたいところでリズムが途切れてしまうのでどことなく苛立ちを覚えました。
なんていうか、続きがみたいところでCMが入るテレビ番組みたいで。
まあそれがうまい具合に最後でぴたりとくっつくのですが、そこまでたどり着いた頃には、やっとかーっていう感じでした。
初めのうちは葵の中学時代の話と現在の彼女とのギャップにどうしても違和感があり、どちらかというとこれは小夜子の過去なんじゃないの?という感じがしたのですが、でもこれも作者の意図したことなのだというのが最後の方になるとわかります。
実はきちんと話の流れや細部の関わり方までを構成してあるのがいいですね。
例えば、夏休みにペンションでアルバイトをする葵とナナコが雇い主からあれこれと仕事を指示される部分を読んでいると冒頭の小夜子と葵と中里典子の関係が思い起こされて、なんとなくナナコ=小夜子なのかなという印象を持たされます。
(細かいですが、小夜子は中里典子から、ナナコが雇い主から指示されたのと同じ「台所」を掃除するように言われています。)
それが、きちんと繋がったのが読んでいて嬉しかったです。やっぱりこういう部分の構成とかがきちんと凝っている人が書いた本っていうのはなんか好きです。
最後のあたりまで気づかなかったけど葵が旅行業をやっていることもちゃんと彼女の過去と関係あるんですね。もうひとつのビジネス、掃除代行業も実はそれでなくてはいけないように作者が設定したのかなと思いました。
小説の中身はしっかりと練りこまれているためか、とてもリアリティがあります。
でもそれはあまり振り返りたくないような経験だったりもするんですよね。学校の人間関係や家族との関係に関して述べられているところはどうも思春期にあるすこしどんよ〜りした感じが思いおこされてなんかちょっとだけ暗い気持ちになってしまいました・・・
最後に小夜子が「わかった。こういうことなんだ」と何かを掴む部分では、「ええ、そういうことなのか・・」と少しばかり解せない気分になりながらも爽やかに物語が閉じられたことにどことなく安心感があったことは確かです。
ようは前向きな姿勢を示して話を閉じたいのかもしれないけど、僕はとかくノスタルジーに浸りがちな人間なので、一歩を踏み出そうとか、前向きに頑張ろうとかっていう姿勢は一時期はそうだったし、遮二無二何かに取り組んでいるときはそうとしか思わない思考回路ができあがっていたりするんだけど・・・
でも、どうしてもこの小説を読んでいると、そういった前向きな姿勢よりもノスタルジーだったり、物寂しさの方に惹かれるんですよね。
大人になれない葵と小夜子の対比。どちらの言い分もわかるだけに寂寥感がかきたてられて、実は同じ、重なる部分もあることが余計にそういう気持ちにさせる。こういう人と人との関係のややこしさについて丹念に描いている点が僕は一番この小説で印象に残った部分ですね。
それから、そもそも僕は、女性作家の角田光代が描いた女性同士の友情という点に興味を持ったわけですが、実は男も女も、もっとえいば世代というものあまり関係ないのかなということを思いました。
たとえば、本書の中で葵が「私達の世代(30代後半)ってひとりぼっち恐怖症じゃない?」と言っている場面がありますが、これは今の大学生世代にも確かにあるというのを当事者である僕も自分を含め、周りを見ていて、ときに敏感に感じるときがあります。
「他人と自分との関係」という、多くの人が悩み考える問題を描いたこの小説にはそれぞれが抱いた人間関係の形がどこかしら現れている部分があるのではないかと思います。
いくつも共感というか、引き寄せられる描写がありましたが、ひとつだけここに引用しておきます。
けれど、一定の距離を超えて相手が近づいてくると、葵はあわててバリアをはる。電話にでなくなったり、学校にいかなくなったりして、また一定の距離ができあがるのをじっと待つ。幾人かの友達はそのうち離れていったし、男友達が恋人になることはなかった。だれかと親しくなることはこわかった。葵のなかで、親しくなることは加算ではなく喪失だった。
う〜ん・・・(-_-;)
あるある。
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌